右、斜め45度

右斜め45度は、「Done is better than perfect!」の日本語訳のつもり。進んでいれば良しとする精神を大事にしたい。

出版社は電子書籍の価格を下げざるを得ない わけじゃないと思います

このエントリー、僕らの業界、電子書籍業界の市場を数値的に見ていて、面白いです。
どんなに頑張っても、出版社は電子書籍の価格を防衛できない(2012年10月31日) - エキサイトニュース(1/5)


ざっくり、彼の趣旨を言うと、

  • 電子書籍は、印刷、複製のコストが0になったことが最大の特徴
  • そうなると、新規参入が現れる。電子書籍ストアにとって、一番の脅威は、例えば、クックパッドのような「書籍以外に収益モデルのあるプレイヤー」である。
  • 彼らは、有料会員獲得のためのコンテンツとして電子書籍を捉えるならば、電子書籍を100円で提供したって十分元が取れるからだ
  • そうなると、既存の出版社も価格をさげざるを得ない


一点目は、僕は、個々のコストではなく、大規模な設備がいらなくなったことだと思います。
いま読みかけてるメイカーズでは、現代は、3Dプリンターがあれば誰でも製造業をやれる世界だと述べていて、同じような趣旨・論旨だと思ってます。

MAKERS 21世紀の産業革命が始まる

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冒頭のブログが述べているように、出版社が電子書籍の価格を防衛できないとは思いません。なぜなら、消費者は、クックパッドが出すコンテンツ と、村上春樹のコンテンツを同列に認識をしてるわけじゃないからです。

僕は、電子書籍といわれるものの裾野は広がる。そして、価格もまちまちになっていく と思っています。

順を追って説明します。

まず、1000円の本があったとき書籍のコスト・価値を分解すると、

  • 本を創るコスト・価値:100円
  • 本を編集するコスト:350円
  • 本を刷るコスト・価値:200円
  • 本を流通させるコスト・価値(取次ぎの価値):80円
  • 本を売るコスト・価値(書店が手に入れる費用):270円

になります。

この中で、電子化すれば「本を刷るコスト・価値」がまるまるなくなります。
加えて言えば、電子化すれば、「本を流通させるコスト・価値」も極限までゼロに近づくでしょう(もっとも、現状では、配信ファイルの管理などを取次ぎがしてるみたいなんだけど、まぁ価値は少ないですよね)

つまり、どんなコンテンツも、280円くらいは安くはなります。
で、ここからは、その電子書籍のコンテンツの性質によって違うと思うわけです。

なお、ここからの議論は、上記の1000円の本が、それなりに売れた(つまり、編集や創るという固定費を賄える程度)前提で、その本の値段をいくらにすべきか という話にします。
#当然ながら、バカ売れしたら、固定費は薄まるので、価格は安くてもペイできちゃうので。


1.メルマガをまるまる電子化した電子書籍=0円

例えば、津田さんとかは、メルマガを読みやすくするために、e-pub化してタダで配信してます。これは、当たり前な話で、上記のコストで言えば、電子化で新たに発生するコストは殆どないからです。

2.クックパッド・書店などが自分の優良顧客向けにわざわざ作るオリジナル電子書籍=200〜350円

自社の優良顧客向けに、オリジナルコンテンツなわけです。とはいえ、創造性に満ち溢れているものを創るわけではなく、おそらく既存のコンテンツをうまく加工したものになると思います。上記で言うと、「本を編集するコスト・価値」だけ掛かる(350円)イメージでしょうか。なお、注記をしておくと、単品で元を取るとなると350円という意味合いであり、このコンテンツ目当てに、優良顧客が入るならば、もっと価格は安く出来るはずです。

また、たとえば、書店などで行っている有名な著者の講演をそのまま文字起こししたものを配信するとしますと、「本を創るコスト・価値(というか著者に支払うコスト・価値)」と、文字起こしする手間「本を編集するコスト・価値」がわずかに掛かるでしょう。この場合、200円もあれば元が取れるのではないですかね。

3.個人がパブーなどで配信する電子書籍=0〜450円

個人的にパブーを使うとすると、30%のコストが掛かるみたいですね。いわゆる「本を売るコスト・価値」なわけですが、従量課金なので、300円じゃないとペイしないわけじゃないです。本を創る手間はそれぞれなので、なんとも言えないです。本を創る&編集するコスト・価値をあわせた450円が最大じゃないですかね。

4.著名作家がこれまでどおり出版社経由で出す電子書籍=450〜720円

これは、本を創る&編集する価値がまるまる掛かります。
普通にアマゾンやhontoなどで販売するとすると、これまでの27%くらいはとられると思うので、720円くらいじゃないとペイしないですね。一方で、出版社が自分のサイトで売る分には450円で良いと思います。もっとも、出版社が自分のサイトで売るとなると、閲覧数が下がるので、450円の値付けでは元がとれなくなる可能性は否定できないですが。

ということで、これまで通りの普通の書籍が、新規参入の本の価格に引っ張られて、どんどん下がっていくということはないと思ってます。