抽象化という概念が重要なことを知らしめる奇跡の書『料理の四面体』
- 作者: 玉村豊男
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2010/02/25
- メディア: 文庫
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この本には、とにかく驚かされた。
僕はこれまで、料理とは、よく言えば芸術的で、悪く言えば非科学的な代物と思っていた。というのも、「フランス料理はソースが命。ソースは、何百、何千もの組み合わせがあり、それをマスターするには十数年かかる」というような高尚さを自慢するような説が多いからである。
この本は、その真逆だ。
地球上に存在する膨大な料理方法、料理を、「空気」・「水」「油」という三角形を底辺に取り、「火」という時間と量の変化の過程で解明する。
そして、そのことで、下記のような「主体的な料理」が可能になる。
四面体の原理を頭におきながら、ひとつひとつ基本プロセスに分解する。そうして、その料理の根本をつかんでおけば、好みに応じて、不必要なプロセスを省略してみたり、指示されている調味料・香辛料を自己流に変えてみたり、といった末節な作業は記述に惑わされることなく、主体的に行うことができるはずである
おおお、これこそ、ロジカルシンキングの意味ではないか!
この他、下記のような雑学も面白い。
13世紀の終わりくらいに、「鉄鍋」という文明の利器が家庭に入り込んで来て、今日の中国料理のスタイルを築いた。
暖炉→オーブンを万能調理器として活用して来た西洋人は、ふつうの煮物までオーブンの中に鍋ごと入れてしまうようなクセがつき、火にかけた鍋で油を操るテクニックには習熟しなかったのかもしれない。そのうえ、目的に応じて様々な大きさの深さの鍋を使いこなす個別化主義の西洋料理哲学は揚げ物のために揚げ物専用の深鍋を用意してしまったために、せいぜい2種類くらいの分類しかできなくなってしまった。その点、中国人は、大きな中華鍋一個を用いるため、そこに落とした一滴の油が鍋いっぱいになるまでのあらゆる過程で、さまざまな原料が様々なことなる形に変化していく様を連続的に眺めることができた。
揚げるという料理方法を分類し、その分類を使い活用していく姿が実に軽妙なので、紹介する。
揚げるは、四つに分類される。
- 素揚げ
- 粉揚げ
- 衣揚げ
- 変わり衣揚げ
材料は水分を含んでいるので、黒焦げになる恐れがあり、イモなど澱粉質を多く含み自らを守れるもの以外は、素揚げしない。こうした危険を防ぎ、外はカリカリ中はホカホカにするのが粉をまぶして揚げる唐揚げ。衣とは、粉をなんらかの液体にといた流動体をつけて揚げるもの。フィッシュアンドチップスは、タラやメルルーサに、小麦粉をタマゴと牛乳で溶いたものをよく練ってパイ生地のようにしてから付けて揚げる。技法は天ぷらと一緒。
揚げると炒めるの違いは、油の量。この違いを使い、日本のトンカツは、西洋カツレツの限界を打ち破った例も面白い。西洋カツレツは薄いが、日本のトンカツは厚い。
シャロウフライで炒めるのにカツレツの肉は薄くないといけないし、しかし、ぬるい油でフライしたらベチョベチョになってしまう。それが、西洋カツレツの限界だ。日本は、油たっぷりのディープフライで、外が焦げる前に、中に火を通し、ぬるい油でじっくり揚げながら、しかもべちゃべちゃにならないテクニックを作り出した。それがトンカツ。