本は、わずか20万人の1時間/日の取り合いである(=ニッチ産業)と言い切った良書。『電子書籍を日本一売ってみたけれど、やっぱり紙の本が好き』日垣隆
大塚さんが勧めていたコチラの本。
- 作者: 日垣隆
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2011/04/28
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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日垣隆さんの本はこれが初めて。
なるほど、最後まで読んでわかるけど、この著者は読者を選ぶ。
最後の方は電子書籍の話が全く関係なかったり、事実の真偽が不明だったり、口語調だったり。
僕は、必要な部分をピックアップできるくらいの読書スキルはあるので(笑)、とても興味深く読めました。
たとえば、日垣さんは、電子書籍というツールに対して全肯定でも全否定でもない現実的な見解を多く述べてます。
- 紙の本をただデジタルにしたところで、検索ができるようになり、その代償として目が悪くなるくらいで、「紙の本ではできなかったこと」を電子書籍はメインにしていくべきである。紙から電子書籍へは、交代していくのではない。「考える読書」と「検索」は違うのだ。
- 電子アプリでは文章、音声、写真、動画をミックスさせることができるので、ほんとは全く新しいコンテンツが作れるという話をよく聞きます。一面では真実です。たとえば、ニューズウィークの記事をipadで見ると、ゴールシーンがYouTubeに飛んだりする。サッカーのゴールシーンは、写真と動画では全く比べ物にならない。一方で、「ルポ脳性−難病ALSと闘う人々」では極力写真の点数を抑えてます。物書きの表現手段として、動画など使ってたまるかと思うのです。
- 手売りは電子化時代のキーワード。自サイトでのオリジナルコンテンツ販売や有料メルマガ配信。
- Twitter社会論は紙の本にはなかったコンテンツを6つも収録している。こうしてがんばっても、結局は紙の本の7%しかうれなかったという事実。電子書籍業界全体をみるなら、この書き手の報われなさをどうにかした方が良い。どうせ売れないのだから紙の本をそのまま電子化してしまえ ということを助長してしまう。
著作権についても、これまた、日本の状況を鑑みながら、妥当な意見を述べてます。
- 著作権は2年で十分。著作権を50年から70年に延ばすというのがありますが、それは元々はディズニーの要求です。
- 公共放送は映像へのアクセス権を解放する。民放も国の認可の元で運営しているのですから、すべてをオンデマンドでみられるようにする。
- 品切れ重版未定は絶版とみなす。著者の自由なデジタル化を出版社が妨げる権利はありません。第21条をみても分かるように、著作権法は基本的に著者の権利を強烈に擁護するものです。
- 雑誌のインタビューなどは販売期間が過ぎたら、インタビューを受けたヒトが自由にデジタル化する権利を持つ
- 古典作品の解説は、私的に使う限りにおいてはOKとする。
- ギリギリの線にふれるものは敢えて相談しない。いまだ慣習や常識や契約ができていない得y主なものについて「これ、俺の方で電子書籍化してよい?」と担当編集者に聞いたら、「上に相談します」→「さらに上に相談します」→「ご容赦願えませんでしょうか」となるのは目に見えている。
かとおもえば、CDブックに新しい意味を見出している。
- CDブックは原価が安く単価が高いので数百部売れれば十分商売としてなりたつ。であればいくらでもニッチを追求できるはずである。
- たとえば新書1冊の印税は700円×10%×1万部から源泉徴収税を引いて63万円。一方で、1200円のCDが1000部うれれば印税は120万円。本の20分の1だけCDが売れれば同じ収入が得られる。
本は所詮ニッチ産業であると述べる。
- 結局は可処分時間の奪い合い。8時間寝て10時間働き、通勤に2時間。食事や飲み会、おしゃべりが3時間とすれば残りは1時間しかない。それをテレビや新聞と奪い合っているのだ。
- 書店に日常的に立ち寄る人が200万人。「きちんと」本を選べる人が20万人。だから自分の本が2万部〜20万部売れつづけるならそれでよい。むしろそれ以上増えるとろくなことがないと思っている。
200万人という少なさに少々驚いたんだけど、以下のような試算を想定すると、あながち間違えでもない(以下の計算を前提にすると、市場規模が1兆円となり、ちょうどくらいになる)
- 200万人の日常的に本屋に立ち寄るヒトは、1500円〜2000円程度の単行本を月5冊程度買う(24万円/年)
- 日常的には立ち寄らないヒト(5000万人)は、ベストセラーを中心に1000円程度の新書を月1冊程度買う(1.2万円/年)
電子書籍を率先して使うのは、きちんと本を選べる20万人。
そのヒトが日常的に電子書籍を使った(月5000円)としても、「きちんとした本の電子書籍市場」は、120億円に過ぎない。やはり、BL、TL、まんが がないと厳しい ということかもしれない。