モノを理解する・デザインすることの意味を考えさせられます『デザインの骨格』山中俊治
suica改札機の傾きをデザインした、山中氏のブログ
が本になりました。
- 作者: 山中俊治
- 出版社/メーカー: 日経BP社
- 発売日: 2011/01/25
- メディア: 単行本
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ブログを本にしたというだけあって、全体を通してのメッセージは弱いです。
帯に書いてある「なぜ、suica改札機の読み取り角度は、13.5度傾いてるのか? なるほど、デザインってそういうことだったのか」 というのは、釣りですね。別にこれを読んだからって、「何故、13.5度なのか」なんて何処にも書いてない。
とはいえ、色々心に残った言葉はありましたので、抜粋します。
まずは、アップルやダイソンやタイヤのデザインの秘密について、いくつか。
ダイソンの羽のない扇風機を手に入れました。アップルやダイソンは、いつも新しい世界を切り開いてくれます。そのもたらす未来が、マイクロソフトやGEが与えてくれる生活よりなんとなくよさげに思えるのは、前の2社の商品にはある種の理想主義があるからでしょう。しかし、この2社の理想は対照的でもある。
アップルがいつも新しい使いやすさを提案するのに対し、ダイソンが提起するのは新しい機械原理。どちらも本質的な機能とスタイルを革新してくれるのですが、車に例えると、アップルは新しい運転操作をデザインし、ダイソンは新エンジンを開発します。
アップルはなぜ一つボタンにこだわるかという議論をしました。もう一つかふたつボタンがあるだけで格段に使いやすくなるのにという学生に、iphoneのインターフェースは「やってみればわかる」を基本にしているからではないかと答えました。複数のボタンを機能させるためには、必ずある種の決め事が必要になる。その決め事は文字や記号で法事されることになり、それを理解しない限りそのキーを使うことができません。アップルは、そういう言語的な決め事を嫌ったのでしょう。
プラスチックの製品は、熱く解けたプラスチックを型に流しこんで、冷えて固まったところで取り出して作ります。そのため多くの場合、どちらかの方向に向かって台形に広がっています。まっすぐなものは型から抜けないからです。スティーブジョブスはこの台形が許せませんでした。型をバラバラにしながら取り出すと側面が垂直のきれいな直方体が得られます。しかしテマをかけた分、部品の値段はぐんと高くなります。これを専門用語でゼロドラフトといいます。
タイヤの溝は、一定ピッチで切られていない。
一定ピッチで溝が刻まれていると、それぞれのブロックが一定間隔で地面に衝突するため、ある周波数でビーという明瞭なノイズが発生する。しかし、パターンに変化があると様々なタイミングで衝突するので、全体としてざーっという周波数の幅があるホワイトノイズになり、耳障りなロードノイズを防げるのだ。
何かを描くということはどういう行為なのか。
形を描こうとしてはいけない。構造を描くことによって自然と形がうまれる。
面白いことに、言語論理的思考の優秀な人間ほど、しばしば「形」をみていない事に気が付きました。なるほど、わかった と判断したとたん、そのものを見なくなるのです。これは人の認知の構造と関わると思われます。
絵を描く訓練は、分かっているものを敢えて捉えなおす作業です。従ってよくしっているモノほど正確に書くのが難しい。皆さんは、自分の顔を良く見ているはずですが、自分の眉毛の中点が瞳の真上にあるかどうかを覚えているでしょうか。
絵を描くことは、ものの輪郭を書くことではない。重要なのは向こう側にあって見えないものや、中心軸のような仮想の線を描くこと。そうやって立体や空間の構造を把握したときに迷いなく輪郭を決定することができる。
我々の目・感覚器官を通して世界を再構築する(=構造を理解する)ときに、初めて輪郭という仮想の線が引ける という言葉はなかなか奥深い。ビジネスでも同じだなと思う。競合や顧客の動きを、文字通り把握する ということで終わらず、その背景に隠れた「意図」「思惑」を理解するということにより始めてビジネスに意味のある示唆が生まれるわけです。