右、斜め45度

右斜め45度は、「Done is better than perfect!」の日本語訳のつもり。進んでいれば良しとする精神を大事にしたい。

ネットワーク理論の最先端!人間行動の予測可能性について俯瞰した本『バースト!人間行動を支配するパターン』アルバート=ラズロ・バラバシ

いわゆる「モノとモノの関係性(=ネットワーク)」に興味を持つきっかけとなったのは、新ネットワーク思考という本。

一言でいうと、モノとモノの関係性は、「ランダム・全ノードが均一」ではなく、「少数のノードが全体を決定している」というものだ。面白いことに、人間関係グラフでも、タンパク質の相互インタラクションマップでも、この現象が共通しているということだ。

今回の本では、静的な関係性ではなく、人間の行動にスポットが当てられている。

バースト! 人間行動を支配するパターン

バースト! 人間行動を支配するパターン

人間の行動になんらかの法則を見出そうとする/あるいは予測しようとする試みとして以下のようなものを紹介している。

WheresGeorge.comは、使用された一枚一枚のドル紙幣の軌跡を追いかけている。まず誰かが、手持ちの各種ドル紙幣のシリアルナンバーと自分の居場所の郵便番号を入力する。これで、その紙幣の現在地がサイトに記録される。次に、その紙幣に「WheresGeorge.com」と書き込むか、あるいは専用のスタンプを押して、あとは普通にその紙幣で買い物する。やがて、紙幣のウェブアドレスに気づいた誰かが、好奇心からサイトにアクセスするだろう。そして今度は、その人が、その紙幣のシリアルナンバーと自分の郵便番号を入力すると、この紙幣の新しい所在地が記録される。サイトでは、それまでに記録された、同一紙幣が目撃された場所全てが合衆国の地図上に示される。


紙幣の動きを分析していくと、ニューヨークでスタンプが押された紙幣の57%が二週間が過ぎても放出地点から10キロメートル以内の距離に留まっていた。これは、多かれ少なかれ、紙幣がランダムに移動するという予想と合致していた。しかしながら、何枚かの紙幣は、このランダムなパターンにそぐわない動きをしていた。最初の移動から二週間後、ニューヨーク発の紙幣の7%が少なくとも800キロは離れた場所で見つかっていた。これらは、他の紙幣より断然早く移動しただけでなく、拡散理論から予想されるパターンとも大きく異なっていた。

仮にある記事を読んでいない訪問者のことを、まだ崩壊していないウラン原子だと考えてみる。どうしようもない好奇心の働きによって、彼らはニュース項目へのリンクをクリックする。そのクリックのタイミングは、各訪問者の予定も動機もわからないとすると、まったくランダムに見えるだろう。そのため、ラザフォードの理論を用いて、未読者の数を予測する数式を作った。あるニュースを一度でも読むことになる訪問者の半数以上は、ニュースの公開から36分以内にクリックするはずだということが理論的に予測できた。しかし、実は、ある標準的な記事をユーザの半数がクリックするまでに掛かる時間は2100分だったのだ。

電子メールの送信タイミングを考えてみよう。
最初の5通は、三時間に5通、すなわち45分に一通となり、ポアソン分布に従っているが、その直後、同じ11時49分から11時57分の8分間に、さらに3通のメールを連発している。ポアソン分布に従えば、電子メールのランダムな流れにおいて、そのような急速な連続発信が起こる可能性は、0.000035、そんな8分間が訪れるのは5ヶ月に一回ということだ。


紙幣が(つまり、人間の行動が)が思ったより遠くに行ってしまうのも、サイトが思ったより長い期間読まれているのも、メールが思ったより均等な間隔で打たれていないのも、全ては、ランダムという前提を置いていることが問題であるのだ。


ランダムを仮定すると言うことは、平均値が存在するということだ。
この筆者は、それを否定する。

人間は、短期間に集中して何かを行い、そして長い間沈黙する という「バースト」という行動原理に支配されている。(=頻度の平均値は存在しない)

また、ヒト一人を取ると、人間の行動範囲は決まっているが、ヒト全体と考えると、行動範囲が広いヒトから狭いヒトまで幅広くいて、平均的な行動範囲というものは存在しない


つまり、「縦軸:メールの送信数、横軸:時間」や「縦軸:ユーザ数、横軸:ユーザ毎の移動距離」や「縦軸:サイトの閲覧数、公開直後からの経過時間」を取ると全て以下のようなべき乗グラフになるということだ


さらにこの特性は、電子時代特有のといったような、時代の制約を受けたものではないということも明らかとなる。アインシュタインダーウィン、彼らの文通パターンにもバーストを見ることができたのだ。

いつの時代にも、さまざまな領域でパラダイムシフトというのは起こる。これは、その時代や分野において当然のことと考えられていた認識や思想ががらりと変わることを指す。しかし変わるものがある一方で、全く変わらないものもある。このバーストという現象は、まさに時代や分野を超えた法則たりうるものであったということだ。

バーストが起きるためには、ある条件が揃わなくてはならない。それは人間によって優先順位付けが為されるということだ。重要な課題がいち早く遂行される一方で、遅れに遅れてリスト上で半永久的に待たされる課題というのも存在することになる。このような優先事項が働きはじめることにより、ランダム性は消失し、代わりにバーストが現れてくるのである。

それにしてもなぜバーストは、こんなにも人間と密接したところに頻出するのか?それはバーストの根源が、人間の意思や意識よりもっと基礎的なところにあったという可能性が示唆されている。

多くの動物たちはある領域で長時間にわたって食物を採集したあと、どこか遠くの場所に移って新たに食物探しを始めることが分かっている。こうすることによって、同じところを何度も探してしまうという余計な反復を避けることが可能になるためである。この狩猟採集時の特性が、今もなおバーストという形で残されているのではないかということなのだ。

つまり、あるターゲットを突き止めるのに最も効率のよい戦略は、最も明白で秩序のとれた規則的な戦略ではなく、バーストを含んだ断続的な、あえて言うなら、でたらめな探索戦略ということになる。


普段から、ビックデータを見るときに、ついつい「平均」というものを考えてしまうけれど、それは気をつけたほうが良いという自戒だ。「バースト」というスパークがいたるところにあるのだから。