右、斜め45度

右斜め45度は、「Done is better than perfect!」の日本語訳のつもり。進んでいれば良しとする精神を大事にしたい。

アップルの競争優位は持続的か

10月6日のダイヤモンドがアップル特集でした。
色々記事の内容が面白かったので、アップルの競争優位性について考えてみたいと思います。


デザイン中心主義

商品数が極端に絞られた中で、ごく少人数で構成されたデザインチームが全ての主導権を握っている。そして彼らは、製造技術に精通しているのだ。過去の商品群を見ていると、このチームの中では、その時々で製造方法におけるブームが存在していることがうかがい知れる。例えば、アルミの押出成形を多用する時代、NC加工が好きな時代、プラスチック素材の継ぎ目のない接合にこだわる時代など、同時期にデザイン部門全体で新しい作り方に熱狂していることが分かる。

そして、ここからが驚きだ。デザイナーが作る小ロットの実験的な商品と本当の量産品は別物だと、経営者も、そして当のデザイナーも思い込んでいるのが普通だ。アップルはそうは考えない。元来、量産に向かないNC加工機も、何千台と並べれば量産体制をひけるという発想と提案がデザイナー側から出てきて、経営者がそれを決断するのだ。

まったく新しい作り方で、これまでにない美しいものを作るということの価値を、互いに共有できていないと不可能だ。


少品種が生み出す巨大な購買力

少品種大量生産をすることで、多くの共通備品が使われており、サプライヤーも多くが共通している。iphone5は映像原価と組み立て費用を合わせて217ドルで、原価率はわずか29%だという。一方で、ipadは価格を下げ、原価率を50%程度まで引き上げた戦略をとり、1社で世界の6割近くモノシェアを奪った。

そして、正確な原価計算という武器を持って、徹底的に外注工場を買い叩く。日本のメーカーの大半がまさにアップルの外注工場化している。

例えば、シャープの亀山工場にはiphone5の液晶パネル製造に当たって、50人ものスタッフが送り込まれたという。設備や生産能力、工場の人員に外部調達先や生産のリードタイムなど、以前は世界の最前線でビジネスの現場に立っていたスペシャリストから次々に鋭い質問が投げかけられる。一週間以上、隅から隅まで工場についてみて、聞いて、そのチームは帰っていったという。そして、その誤差が数パーセントという正確さで原価を見透かされてしまうのだ。


少品種が生み出す高い研究開発効率

また、マイクロソフトやグーグルが13%程度の研究開発費をかけているのに対して、アップルはわずかに2.2%だ。如何にコア技術に特化して投資しているかが分かる。一方で、競争優位の源泉となる技術を持っている会社は積極的に買収。例えば、複数の指でタッチスクリーンを操る技術を持っていたフィンガーワークス社や近年では音声認識技術を持つSiri社などである。


少品種が生み出す極限まで絞り込まれた在庫

アップルがどん底にあった95年、アップルの在庫は58.5日分まで積みあがっていた。賞味期限が短いパソコン業界にあっては、在庫は現況だった。倉庫を占拠することで失う利益は年間5億ドル相当だったという。ジョブズが復帰して取り組んだのは、この在庫削減だった。取引先を厳しい納期を守れるサプライヤーだけに絞込み、19箇所あった倉庫のうち、10箇所をまもなく閉鎖した。98年に登場するのが、現在のCEOであるティムクック。かれは、在庫とサプレイチェーンの達人だった。商品ラインナップの大幅な削減により、在庫は2.6日まで減少した。



こうしてみると、アップルは、デザインを最優先する会社のカルチャーと、とことん研ぎ澄まされた究極の製造業としての能力が売りであることが分かります。

一方で、そこに載せるアプリケーション面では、グーグルに対して劣勢だと思うんです。

「iOS 6」マップ騒動と「ビッグデータ戦争」|WIRED.jp


アップルが「iPhone 5」とともにリリースした「iOS 6」では、新しいマップが問題続出だったため、CEOが謝罪するという事態にまで発展しました。その背景には、今後、伸びると思われる地図データについてグーグルに遅れを取らないために、自前でのマップ作成に乗り出したと言われてます。

が、この問題は、そもそも根底のアプリケーションレイヤーにおけるグーグルに対しての劣勢度合いをさらけ出してしまった結果ともいえます。

上記の記事の中で、「Forbes」のデイヴ・アインシュタインは、下記のように述べている。

一見、アップルが優勢のように思えるかもしれないが、より多くの消費者が「Siri」を使用するほど、このアプリが未完成であることを彼らは認識していくだろう。Siriはちょうどマップのように、テレビ等で物笑いの種となっている。一方Androidは、人間の発する言葉をかなり正確に認識し、的確な回答を出すことがますます明らかになっている。(略)

この戦場においてグーグルがとった革新的行為は、ユーザーがAndroid端末で音声検索をする際、その発話をすべて保存する大規模なデータベースを構築したということだ。音声認識が突然、データ駆動型の、自らを訓練するクラウドサービスとなった。このシステムでは、大量のユーザーの音声パターンを比較し、それをコンテンツや検索クエリの文脈と相互に関連付ける。

アップルに対するグーグルの優位は、今後もますます大きくなっていく可能性がある。なぜなら、グーグルの製品開発の多くは、位置情報機能に直接結びついているからだ。現在位置を認識する自動走行車から、SF作家フィリップ・K・ディックの小説から出てきたような「拡張現実」メガネまで、グーグルは位置情報をベースとしたサービスを開発しており、それが「Google Maps」や音声検索などの改善の促進に結びついている。


つまり、アルゴリズムがどうであれ、データでカバーするという戦略をグーグルが取り出している中では、アップルがそれに追いつくのは極めて困難だということになります。


纏めますと、アップルが、デザインを最優先する会社のカルチャー&とことん研ぎ澄まされた究極の製造業としての能力が売りとして、デバイスを更に磨きをかけていくとしても、それはサムソンなどに模倣され、それほど長い期間の競争優位には繋がりません。一方で、そこに載せるアプリケーションは、これからどんどんデータを蓄積させることの優位が働くグーグルと比較すると厳しい戦いが強いられます。どこかの段階で、「デバイス屋」専業にならざるを得ないかもしれません。

いずれにせよ、追いつかれないうちに更に突き放すというこのスタイルを当面は続ける必要はあるようです。