右、斜め45度

右斜め45度は、「Done is better than perfect!」の日本語訳のつもり。進んでいれば良しとする精神を大事にしたい。

天才編集者鳥嶋の漫画術との比較が面白い『荒木飛呂彦の漫画術』

コンテンツに携わるものとしては、面白いものを再現性高く生みだす方法に極めて興味がある。その点で、ジョジョの奇妙な冒険の著者「荒木氏」と、ドラゴンボールなどの大ヒットを生みだした編集者「鳥嶋氏」の漫画術の比較が非常に面白い。

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1.キャラクターだけ立っていればよいのか?

鳥嶋氏はキャラクターの身近さであると説く。

そうね……言ってしまえば、「人間」を描けてるかどうかの一点に尽きるんだけどね。動物だろうが、ロボットだろうが、魔物だろうが、やっぱりキャラクターである以上は、本質的には“人間”なのよ。それがしっかりと描けていれば、「これは私だ」と読者に思わせられるんだよ。

「身近」に感じられるかどうかだね。

よく僕が新人漫画家に言うたとえ話があるんですよ――例えば、君が大好きだった女の子にデートの約束を取り付けて、その場所に急いでいたとする。そのとき、交通事故で倒れている人がいたら、どうするか。

知らない人だったら、きっと君は助けるかどうか迷うはず。

でも、それが自分の弟や妹、あるいは友達だったらどうするか。

たぶん、君は迷わず助けるんじゃないかな。そして、その君の判断は「身近」に思っているかどうかにかかっている。
「キャラクターを立てる」という事の本質は、ここに尽きるんだよ。キャラクターの「身近さ」を上手く作れているだけで、同じエピソードでも切迫度が一気に違う。

だから、ストーリーを作り込むことに血道を上げるのがいかに無駄かという話ですよ。その前に考えるべきは、身近に感じられる魅力的なキャラクターな んです。キャラクターさえしっかりしていれば、エピソードなんてどうとでもなる。というか、むしろエピソードなんて、そのキャラクターを際立たせるためのものでしかないんだよ。

一方で、荒木氏は、あくまでバランスであると説いてます。キャラクターだけ突出したパターンを否定するわけじゃないが、再現性がないと言いたいのでしょう。

キャラクター、世界観、ストーリー、テーマの4大要素が大切。サザエさんこち亀のようにキャラクターだけを突出させたり、AKIRAのように世界観だけを突出させることもできるが、真似できるものじゃない。

ただ、キャラクターの作り方においては、鳥嶋氏と近いことを言ってます。

読者の共感や興味を得る動機を作ってあげることだ。誰もが持っている醜い感情を開放させ、いわゆるきれいごとじゃない、人間の生々しい感情を描き、読者の共感を呼ぶ、悪のキャラクターを作れば、その漫画が傑作になる可能性が高まるでしょう。

キャラクターを作るときは、絵を描く前に、身上調査書を書く


2.描きたいものを書くべきか?

荒木氏は、世の中に迎合せず、自分の人生に沿ったものを描けと言う。

アナと雪の女王は、あの雪に閉ざされた白く寒い世界にしたことがヒットのポイントと踏んでいる。主人公の孤独な心というテーマが雪の世界で効果的に表現されていた。だからこそ、その凍えるような寒さと姉妹愛の温かさが際立った形で対比され、感動が生まれた。

テーマは、あくまで自分の人生に沿っているべき。自分が興味を持っていて、自分の心の深いところや人生に関わるものであれば、それが暗いテーマで売れそうにないと思えたとしても、それを描こうと決意すべき。ヒットするかどうかに重要なのは、必ずしも売れそうなテーマではない。

鳥嶋氏は、内面から湧き上がるものを描けという点では同じことを言っているが、「描きたい」と思うものはあこがれなので、やめろと言っている。同じことを言ってるが、鳥嶋氏の方が人間の心の弱さまで含めたアドバイスになっている。

作家には「描きたいもの」と「描けるもの」があるんだよ。そして、作家が「描きたいもの」は大体コピーなの。既製品の何かで、その人がそれまでの人生で憧れてきたものでしかない。

鳥山明さんであればアメコミっぽい作風だとか、そういうものが「描きたいもの」としてあったけど、そこからヒット作はやっぱり出てこないんです。実際、鳥山さん自身の「描きたいもの」は、申し訳ないけどつまらないんですよ(笑)。

そこに彼のボツの歴史があったんです。色々と彼はカッコいい絵柄の作品だとかを描いてきたけど、最後には「則巻千兵衛」というオッサンと「アラレちゃん」というメガネを掛けた女の子に行き着いた。でも、それこそが彼にしか描けないキャラクターだったんだね。そこに辿り着いたときに初めて、彼はヒット作家になった。

結局、ヒット作はその人の「描けるもの」からしか出てこないんです。それは作家の中にある価値観であり、その人間そのものと言ってもいい。これをいかに探させるかが大事で、そのために編集者は禅問答やカウンセリングのように色々なことを対話しながら、本人に気づかせていくんです。

すると、本人にしか出せないキャラクターが、まさに則巻千兵衛のようにポンと出てくる瞬間がある。ここにその作家の原点があるんだね。そして原点的なものは、まさに言葉本来の意味で「オリジン」(起源)なんです。「オリジナル」であることの真の意味とは、そういうことなんですよ。

3.ストーリーにリアリティは必要か?

鳥嶋氏は、リアルがないストーリーはダメだと説く。この意味は、現実ではありえないことを描くべきではないという意味だ。

「王道」なんてあるわけないじゃん。強いて言えば、そのとき流行ってるものが「王道」だよ。『バクマン』でもそんな話をしていたけど、あの作品は本当に世間に良くない影響を与えてると思うね(笑)。

「友情・努力・勝利」とか全く無意味ですね。あんなのはバカが言うことですよ。

もっと正確に言うと、「友情」と「勝利」は正しいんです。でも、「努力」は子どもは大嫌いなんです。実際、昔アンケートをしっかりと取った結果は「友情・勝利・健康」だったんだから(笑)。

だから、『ドラゴンボール』では「努力」はさせなかったんですよ。「修行しました」とは言うよ、でもあくまでも結果で見せていく。だって、「滝に打たれて修行する」とか、そんなバカな話が現実には意味ないことくらい、そりゃ今の子供は知ってるよ。そういうリアリティは普通に生きていれば、この情報時代に絶対にキャッチするからね。


荒木氏は、リアルなストーリーを追求すべきじゃないと言う。鳥嶋氏と意味合いが違うのは、現実の負の部分を書かなくてよいというニュアンスだ。

主人公は常にプラスであるべき。トーナメント制などはそれができる良いフォーマットである。キックアスの続編では、ヒットガールが普通の女の子に戻っている。見ているほうは、早くヒットガールに戻れよと思うし、これでは、マイナスプラスゼロであり感動を呼ばない。現実を考えれば常にプラスはありえないのだが、リアリティを追及する芸術作品でないならば、常にプラスを目指すべきだ。